LOVE SOME STORY

第一話

植物のストーリーひとつひとつを
僕は話したくてしょうがなくなる。

江口 宏志 | 蒸留家

1972年、長野県生まれ。2002年にブックショップ「UTRECHT」をオープン。2009年より「TOKYO ART BOOK FAIR」の立ち上げ・運営に携わり、2015年に蒸留家に転身。2018年、千葉県大多喜町にあった元薬草園を改修し、果物や植物を原料とする蒸留酒(オー・ド・ヴィー)を製造する「mitosaya薬草園蒸留所」をオープン。

僕はなんでも自分で作って、やってみるのが好きだ。

ここは千葉の房総半島の南・大多喜町。もともと薬草園だったこの場所にはたくさんの植物が育っていて、これらを生かしつつ、そこに好きなものを新たに植えたり、建てたり、加えたりしている。7年が経った今、みるみるカオスとなっている。

園内を歩くのは、いつもたっぷり時間がかかる。その時季ごとに、たちどころに変化していく花や葉や実や鞘を触って、ちぎって、かいで、味見して。ゲストを案内するときはなおのこと、それらをひととおり体験してもらいながら、その裏側にあるストーリーを話したくてしょうがなくなる。

木々のアーチをくぐり抜けると、むんとしたバナナのような香りが立ち込める。

これはカラタネオガタマという常緑木で、うす黄色い花からは甘く強く香りを放つけれど、ややこしいことにバナナの実がなるわけではない(ちなみに本物のバナナの木は木である)。

またこの日はちょうど、ドロップワートという植物に、白くて小さな花が、身を寄せ合うように咲いていた。見た目は可憐で美しいけれど、食べると湿布のような味がする。

少し坂を下ったところには、“アブサンフィールド”と呼ぶエリアがある。アブサンとは僕が好きなハーブリキュールの一種で、その成分であるフェンネル、アニス、コリアンダー、ニガヨモギ、サクラヨモギなどを植えている。

目印となるのは、百葉箱だ。もとは温度計や湿度計などが入っていたこの白い箱を活かし、小さなライブラリーを設えた。最初はもとある箱にただ本を収めていたのだけれど、カタツムリが侵入して紙を食べてボロボロにしてしまうことが発覚し、あわてて隙間を塞ぐなどの大工仕事をすることとなった。

大工仕事といえば、最初に取りかかったのはゲストを泊める小屋だ。

ここはもと東屋だった。公園などによくある、ベンチや机のある壁のない建物。この屋根と柱と床の部分を再利用し、セルフビルドを試みた。味わいも耐久性もある焼杉を自作するところから始め、壁を囲い、窓や扉を取り付けた。またお店としても使えるよう、扉の一部を跳ね上げ式にした。また冬は寒くないよう断熱材を入れ、薪ストーブも設置した。完成にこぎつけるまで、思いの外たくさんの時間と労力を費やしたけれど、満足のいくものができた。

調子に乗って、次に作ったのはサウナ小屋。温室用のパイプとビニールでテントを建て、中に薪ストーブを入れ、サウナストーンを置いた。

完成した際、折しも遊びに来てくれたのが、フィンランド人建築家のトーマス。これまで数多くのサウナの建築を手がけてきた彼がここを見て「Best sauna in Japan!」と言わしめたのは、僕にとって誉れでしかない。

そんな話ばかりしていると「いったい何屋さん?」と訝しむかもしれないけれど、僕らがここでやっている主な仕事は、蒸留酒を作ることだ。